火災よりまぬがれて

Aug 11, 2008

HCJB音楽宣教師 尾崎道夫

 テキサス州ヒューストンの夏の朝が明けようとしていました。蒸し暑くて寝苦しい夜で眠りが浅かったせいか、玄関のドアをはげしくたたく音ではっと目が覚めました。なにか焦げくさい異臭が鼻をつきます。何がおこってもおかしくない南米エクアドルならともかく、ここはアメリカなのでまさかとで思いながら、暗闇のなかを手さぐりで玄関先へと向いました。ガレージの方で異様な物音がするので、とりあえずドアに手をかけて中を見ようとした瞬間、目の前にオレンジ色の焔と煙が飛びこんできました。これは大変とあわててドアを閉め、咄嗟に寝室に折り返えすと、家内や子供たちを起こし裏口から家の外へ誘導。と同時に火災報知器がけたたましく鳴りはじめました。無意識のうちにつかんでいた携帯電話で911番をダイヤルして緊急連絡。その間わずか3分足らずでした。

 外には、家のドアをたたいて急をしらせてくれた近所に住むマリソルさんとご主人のラファエルさんが立っていて、やはり911番に電話をかけていました。その日の早朝、マリソルさんは勤め先のコンチネンタル航空会社へ向う途中、いつもの曲がり角で車庫から煙が出ているのを目撃し、すぐに車を降り、玄関のドアをたたいて、異常を知らせてくれたのです。午前4時でした。そんなに朝早く家の前を通りかかるとは!天使が姿をかえて地上に舞いおりてきて夜警の役を果たしてくれた、としか考えられません。

 消防車が到着するまでの長かったこと。車庫の中で自動車が爆発しては危険と、みんな家から離れたところに立ってひたすら消防隊の到着を待ちつづけました。やがて消防士たちが現場にとどりつくと、いきなりガレージ横の玄関から家の中へ直進しました。情況をすばやくみてとり、内側から外側に向けての消火活動を開始したのです。ガレージと居間との境の壁に穴をあけ、屋根裏にものぼって、上と横から水の集中砲火です。「消火は火元に水をかけるな。そこはすでに焼け跡だ。周囲を守って延焼を防げ。燃え広がろうとする焔に向って戦え。」この鉄則を守った消防士たちの活躍で被害は最小限にとどめられました。

 家の持主であるシェルビー夫妻に連絡をとりました。ふたりはイラク北部の短期宣教師なので、私たちがその留守をあずかっていたのです。電話はかけられないのでメールで知らせところ、すぐに返事がきました。「家屋のことは心配しないように。それよりも家族全員無事だったとのこと。何より感謝です。」帰国する直前におこった不慮の災難なのに、自分のことより人のことを顧みる優しい心づかいが読みとれとれました。自分たちには何の落ち度もなかったとはいえ、この言葉をきいて救われたおもいでした。

 警察や保険会社から関係者が現場検証にきて、必要な火災の事後処置もてきぱきと進められました。当然、私たちには保証は一切ないので、車をはじめ、車庫に置いてあった自転車、スケートボード、エクアドルからの引越荷物のダンーボールなどすべては「焼け損」ということになりました。しかし、教会や友人たちが、時を移さず、私たちに救援の手をさしのべてくださいました。みんなで手分けして、当分生活に不便のないように特別の配慮をしてくださることになったのです。すべてを益としてくださる神に感謝します。

 天災も人災も思いがけない時にやってきます。それだけに、備えだけはいちおうしておかなくてはなりません。こんど住む家に入ったら、家族全員で非常時の際の退避訓練だけは実行しておこうと思います。その日、その時のために!

 恐れるな。わたしがあなたを贖ったのだ...火の中を歩いても、あなたは焼かれず、
災いはあなたに燃えつかない。  旧約聖書 イザヤ書 43章2節

(2008年7月26日記す)